不法原因給付は金銭だけでなく物品に対しても成立するか?

 はい、不法原因給付は金銭だけでなく、物品や不動産などにも成立します。

民法第708条は、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」と定めています。ここでいう「給付」は、金銭の授受に限らず、相手方に終局的な利益を与える行為全般を指します。

具体的には、以下のようなものが不法原因給付の対象となり得ます。

 * 物品: 賭博で得た物品、違法な取引で引き渡された物品など

 * 不動産: 愛人契約の対価として贈与された不動産など

 * その他: 債権の移転など

不法原因給付の趣旨は、公序良俗に反する行為をした者を、法が救済しないというものです。したがって、違法・不法な原因によって何かを渡してしまった場合、原則としてその返還を求めることはできません。

ただし、不法な原因が給付を受けた側(受益者)にのみ存在した場合は、例外として返還請求が認められることがあります。例えば、暴力団員に脅されて金銭を渡してしまったようなケースです。

このように、不法原因給付は、金銭だけでなく、あらゆる財産的利益の給付に適用される法律上の原則です。

不法原因給付が物品や不動産に適用された代表的な判例をいくつかご紹介します。
1. 不法原因による未登記建物の贈与(最判昭和45年10月21日)
事案の概要:
内縁関係にあった男女が、男性側が所有する未登記建物を女性に贈与し、建物の引渡しが行われた。その後、二人の関係が破綻した際に、男性が建物の所有権は自分にあるとして、女性に返還を求めた。
判旨の要旨:
 * 内縁関係の解消に伴う財産分与としてではなく、愛人契約の対価としての贈与は、公序良俗に反し、不法原因給付に該当する。
 * 未登記の建物の引渡しは、民法第708条にいう「給付」にあたる。
 * したがって、贈与者は、建物の所有権が自己にあることを理由として、その返還を請求することはできない。
ポイント:
この判例は、不動産、特に未登記の建物であっても、現実の引渡しが行われれば、不法原因給付の対象となることを明確にしました。所有権に基づく返還請求も認められないという点で、不法原因給付の強力な効果を示しています。
2. 不法原因給付と登記(最判昭和46年4月9日)
事案の概要:
上記と類似の事案で、贈与された不動産が登記された後に、贈与者が登記の抹消を求めたケース。
判旨の要旨:
 * 不法原因給付によって不動産の所有権が受贈者に帰属した場合、贈与者が自己名義で所有権保存登記を経由したときは、受贈者は贈与者に対し、所有権に基づいて所有権保存登記の抹消登記手続を請求することができる。
ポイント:
これは、不法原因給付によって所有権が移転したことを前提として、その所有権を巡る登記手続きについては、不動産物権の法制度の建前から、請求を認めるというものです。前述の判例とは一見矛盾するように見えますが、不法原因給付によって所有権が移転したという原則を前提に、登記制度上の手続きとして権利の回復を認めたものです。
3. 不法原因給付の合意解除と返還の特約(最判昭和28年1月22日)
事案の概要:
不法な原因によって給付が行われた後、当事者がその契約を合意で解除し、給付物を返還する旨の特約をした場合に、その特約に基づく返還請求が認められるかどうかが争われた。
判旨の要旨:
 * 不法原因給付を受けた者が、給付した者に対し、任意に返還することはもちろん、当初の不法な契約を合意で解除して返還を約束する特約をすることは、民法第708条が禁じるところではない。
 * したがって、その特約に基づく返還請求は有効である。
ポイント:
この判例は、不法原因給付の適用によって返還請求が認められない場合でも、当事者間の合意によって任意に返還されることを妨げるものではないことを示しています。つまり、法律が返還を強制しないだけであって、自発的な返還は問題ないということです。
これらの判例から、不法原因給付は金銭のみならず、物品や不動産といった財産全般に広く適用されることがわかります。そして、所有権の移転や登記といった法律上の問題にも深く関わってくる複雑な論点を含んでいることが見て取れます。

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